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Eternal full moon/under_blog こそりとdeepに語ってます、はい。

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HN:
夜羽(よわ)
性別:
女性
趣味:
可愛い雑貨を集めること
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■wj系の趣味サイトを運営。

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■他人の家族の日常に興味のない方はお引き取り下さいね。
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「誰を見てるの?」
櫻が振り向かないのは、声の主をわかっているから。
すぐ後ろの椅子を引く音の次に座った気配がした。
「そこ、私の席。」
「うん、知ってる、櫻の匂いがする。」
返事に窮して櫻は窓からの暖かい空気を吸い込む。

「精市、」
「ん?」
「精市を探してるのにいないから、柳くんを見てる。」
後ろで幸村がそっと笑う。
「丸井くんが切原くんの背中を叩いたのよ。切原くん、凄く怒って三番コートまで追いかけて行ったわ。」
「ふうん、」
「あ、真田くんが女子に囲まれてる。」
「真田でもモテるんだよ、一応。」
今度は櫻がかすかに笑う。
「逃げてきたの?いいのに。」
「俺はよくない。」

真田に詰め寄っているかに見える女子はプレゼントの包みや可愛らしいペーパーバックを手にしている。
普段は風紀委員長として統率を説いてまわる真田だが、部を応援してくれている彼女らには感謝の意を示しているため、こういった場面では強く出られない。
「そろそろ、蓮二が登場するよ。あいつは理詰めで納得させるから大丈夫。」

上辺はそっけない関りしかないように振舞うレギュラーたちは、同じもののために力を尽くすだけに根底では強く繋がっている。
幸村は、生と死に追い詰められた時期を懐かしむ気持ちが生まれてきたことを自覚するとき、共に苦しみそれでも自分を支えて立ち上がらせてくれた彼らの姿も思い浮かぶのだ。
 


「なにも、出来なくてごめんね。」
櫻の言葉の意味を幸村はまず履き違えた。
「櫻からは何もいらないよ。」
ゆったりとした歩調で隣に並ぶ幸村に櫻が初めて視線を送る。
「病気で苦しんでいた頃の精市と出会いたかった、って仕方のないことを時々思うの。」
櫻は再びコートを見下ろす姿に、ああそうか・・・と幸村は思う。

あの日、不安顔の明衣と共に櫻が逃げる様に走り去った事への詫びを柳にされたが、理由を答えられるはずのない櫻の代わりに幸村は言った。
「隠してたのに、本当のことを言われて恥ずかしくなったんだよ。可愛いだろ、俺の櫻は。」
明衣がほっとしたように笑い、柳が呆れたように唇を歪めたことで何事もなくこの件は収まった。
櫻は自分ひとりだけ、極限の幸村を知らない。
なのに、一番近くにいることを望まれている。

「それに、私だって・・・」
「私だって・・・なに?」
言葉を区切った櫻に幸村は反芻しながら、名前の通り櫻色をした指先にそっと触れると櫻が目元を少しだけ染める。
「私だって、精市のこと大好きなのにいつも精市ばかりが好きって言うから、」


幸村は、羽織っていたジャージを櫻にかけながら抱きしめる。
「俺の匂いがするだろ。」
「うん、」
「こうやって、ずっと俺に守られてればいいんだよ。」

櫻と出会うために自分は生きたのだと幸村は思う。
ならば、その幸運を櫻と分かち合うべきだと。

「お誕生日、おめでとう。」
用意してある幸村へのプレセントを取りに行くのか、腕を解こうとする櫻を幸村は許さない。
「何もいらないって言ったよね。俺は櫻のこれからを全部貰うから。」
羽を閉じられて身動きできない蝶さながらの櫻はささやかな抵抗とばかりに自分を閉じ込める腕に掌を当てる。
先ほどまで早春の陽を浴びていた肌は櫻の体温よりも高い。
「精市。」
「なに?」
反論されるのではないかと硬い声が耳元で響く。
「あげるから、心配しないで。」

逃げてきた甲斐があったと、幸村は安堵の想いを交じらせてそっと櫻の髪に口づけた。



Happy Birthday  Seiichi yukimura
2010.03.05


::サイト本館「お題Ⅱ3→2」のさらに後日談です。これでおしまい。 
 

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